だらだらと。
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これまで皆無と言って等しかった休日が急に与えられ、一体何をして良いのかと、部屋に戻ってぼんやり考えます。
畳に横になり、壁掛け時計の秒針が、ゆったりと回っていくのを眺めながら、取りあえずは今日の分の洗濯物はちゃんと取り込もう、最後の奉公だからちゃんと終わらせようなどと考えました。しかし今後は何をすればいいだろう、普通はどこかに遊びに行くのかな…と考えたところで、ようやく考え付くべき所へ思考が働いたのでした。約二年間、まとまった時間を過ごす事が出来なかった慎吾の事です。恋人であれば、休日は外出するとか、二人でまったりと部屋で過ごすとかいった平凡ながらも大切な事がこれまで出来ないでいたのでした。
しかし慎吾は文句を言った事はありませんでした。和己の忙しい日常を知っていたからにしても、我慢していたに違いありません。会えるのは精々、仕事などを終え、人目につきにくい深夜でした。
(屋敷じゃ人目につくから、外で会ってデートでもしよう。いや、この際まとまった休みを貰って旅行に行くってのはどうだ?空白の時間が長かったけど、あいつとは付き合い始めて何年も経ってるんだ。普通の恋人同士なら旅行の一つや二つ行ってるのが当たり前だろ)
とそこまで考え、「オレって酷い恋人だなぁ…」と一人呟きました。
慎吾に無理をさせてきた事を改めて振り返ります。四年間会わないなどという約束を取り付けたのも、組に入ったのも、全て和己の独断でした。それが慎吾との将来を考えてのものだったとしても、結果的に我慢をさせてきたのは間違いありませんでした。
その夜、和己はひっそりと慎吾の部屋を訪れました。人が居ないのを確認し、ゆっくりガラス戸を開けます。慎吾はベッドにうつ伏せに寝そべって雑誌を見ていました。
後ろ手に戸を閉め、「慎吾」と小声で声をかけます。するとびくっと反応し、ばっと後ろを振り返ったのでした。
「何だよびっくりすんだろ!気配消して入ってくんなよ!入る前に声ぐらいかけろ馬鹿」
少し驚かすつもりが慎吾は余程驚いたようでした。
「すまん」
「大体よー、オレが一人シコシコやってたらどうするつもりなんだよ。気まずいだろ」
「一人でやってないでオレを呼べば良いだろ」
「お前、明日も地獄の床拭きが待ってんだ、とかってたまに拒否んだろ!」
「もうしない」
「?」
そこで和己は事の次第を話しました。これからは二人の時間が十分に取れ、更には一緒に旅行に行きたいと考えている、と。すると慎吾は喜色満面の笑みを浮かべ、本棚から慌てて雑誌を引っこ抜いてきました。更に、付箋のついたページを開いて見せます。
「ここに行きたい」
どうやら前々から、もし旅行に行けるならと目星をつけていたようでした。しかしそれをおくびにも出さなかった事に、和己は申し訳ないような切ないような気持ちになります。なんでも希望を叶えてやりたいと思いました。
「じゃあ行こう。あまり忙しくない時期を狙って有給願いを出さねえとだから、ちょっと待つかもしれないけど」
「ここで良いのかよ」
「そこに行きたくて、付箋まで付けてたんだろ」
「まぁ、そうなんだけどさあ。でもココ良くね?ちゃんと見ろよ。雰囲気良いと思わねえ?」
雑誌には、大正時代を思わせるような、古民家風の温泉宿の写真が載っていました。
「確かに良いな」
「だろ?」
「お前こういうの好きなのか」
江戸屋敷のような所に住んでいる為、和風な雰囲気を漂わせるものには飽き飽きしてるのではと思っていたのです。
「大正ロマンっての?無いじゃん、こういうのあんまり。和風の中にも洋風が掛け合わされたみたいなさ。外国の文化が入り混じってる感じの。このステンドグラスとか、白壁に彫ってある文様とか、レトロな照明とか。ちゃんと手入れがされてて綺麗だし。何かもう、全ての要素がオレ好み」
と、慎吾は満足げに特集ページを改めて見やったのでした。
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切るところが見当らなくて長めになっちゃいますが。
これまで皆無と言って等しかった休日が急に与えられ、一体何をして良いのかと、部屋に戻ってぼんやり考えます。
畳に横になり、壁掛け時計の秒針が、ゆったりと回っていくのを眺めながら、取りあえずは今日の分の洗濯物はちゃんと取り込もう、最後の奉公だからちゃんと終わらせようなどと考えました。しかし今後は何をすればいいだろう、普通はどこかに遊びに行くのかな…と考えたところで、ようやく考え付くべき所へ思考が働いたのでした。約二年間、まとまった時間を過ごす事が出来なかった慎吾の事です。恋人であれば、休日は外出するとか、二人でまったりと部屋で過ごすとかいった平凡ながらも大切な事がこれまで出来ないでいたのでした。
しかし慎吾は文句を言った事はありませんでした。和己の忙しい日常を知っていたからにしても、我慢していたに違いありません。会えるのは精々、仕事などを終え、人目につきにくい深夜でした。
(屋敷じゃ人目につくから、外で会ってデートでもしよう。いや、この際まとまった休みを貰って旅行に行くってのはどうだ?空白の時間が長かったけど、あいつとは付き合い始めて何年も経ってるんだ。普通の恋人同士なら旅行の一つや二つ行ってるのが当たり前だろ)
とそこまで考え、「オレって酷い恋人だなぁ…」と一人呟きました。
慎吾に無理をさせてきた事を改めて振り返ります。四年間会わないなどという約束を取り付けたのも、組に入ったのも、全て和己の独断でした。それが慎吾との将来を考えてのものだったとしても、結果的に我慢をさせてきたのは間違いありませんでした。
その夜、和己はひっそりと慎吾の部屋を訪れました。人が居ないのを確認し、ゆっくりガラス戸を開けます。慎吾はベッドにうつ伏せに寝そべって雑誌を見ていました。
後ろ手に戸を閉め、「慎吾」と小声で声をかけます。するとびくっと反応し、ばっと後ろを振り返ったのでした。
「何だよびっくりすんだろ!気配消して入ってくんなよ!入る前に声ぐらいかけろ馬鹿」
少し驚かすつもりが慎吾は余程驚いたようでした。
「すまん」
「大体よー、オレが一人シコシコやってたらどうするつもりなんだよ。気まずいだろ」
「一人でやってないでオレを呼べば良いだろ」
「お前、明日も地獄の床拭きが待ってんだ、とかってたまに拒否んだろ!」
「もうしない」
「?」
そこで和己は事の次第を話しました。これからは二人の時間が十分に取れ、更には一緒に旅行に行きたいと考えている、と。すると慎吾は喜色満面の笑みを浮かべ、本棚から慌てて雑誌を引っこ抜いてきました。更に、付箋のついたページを開いて見せます。
「ここに行きたい」
どうやら前々から、もし旅行に行けるならと目星をつけていたようでした。しかしそれをおくびにも出さなかった事に、和己は申し訳ないような切ないような気持ちになります。なんでも希望を叶えてやりたいと思いました。
「じゃあ行こう。あまり忙しくない時期を狙って有給願いを出さねえとだから、ちょっと待つかもしれないけど」
「ここで良いのかよ」
「そこに行きたくて、付箋まで付けてたんだろ」
「まぁ、そうなんだけどさあ。でもココ良くね?ちゃんと見ろよ。雰囲気良いと思わねえ?」
雑誌には、大正時代を思わせるような、古民家風の温泉宿の写真が載っていました。
「確かに良いな」
「だろ?」
「お前こういうの好きなのか」
江戸屋敷のような所に住んでいる為、和風な雰囲気を漂わせるものには飽き飽きしてるのではと思っていたのです。
「大正ロマンっての?無いじゃん、こういうのあんまり。和風の中にも洋風が掛け合わされたみたいなさ。外国の文化が入り混じってる感じの。このステンドグラスとか、白壁に彫ってある文様とか、レトロな照明とか。ちゃんと手入れがされてて綺麗だし。何かもう、全ての要素がオレ好み」
と、慎吾は満足げに特集ページを改めて見やったのでした。
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切るところが見当らなくて長めになっちゃいますが。
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