だらだらと。
----------------------------------------------------
少しの沈黙の後、「就職したらしいけど」と答えます。
「ふうん、そうなんだ。どこに?」
「や、あんま詳しくは知らね」
「和己とさ、結構仲良かったじゃん。でもやっぱそんな連絡取ってないの?」
「あー、あんまな。つか、オレがコレだからさ。誰とも殆ど連絡取らなかったし」
「それって辛いでしょ」
「…まーな。誰とも連絡をロクに交わさないってのはやっぱな、寂しくないっつったら嘘になるけど」
「じゃなくて、和己と連絡取れないのが」
「…何が?」
再び和己の名前を出されてひやりとしますが、表面上はあくまで取り繕います。
「慎吾はさ、ずっと和己の事が好きだったんじゃないかなと思ってた。なんとなく、そんな気がしてた、ずっと」
「意味分かんねーし、唐突だし、マジで何言ってんの?」
暫く、山ノ井と慎吾は沈黙したまま互いの顔を見詰め合っていました。しかし「まーいーや」と山ノ井はあっさり目線を外しました。慎吾はといえば、まあいい、どころの話ではありませんでした。一体どこまで感付かれているのか空恐ろしくなります。山ノ井が人一倍洞察力に優れていて、たまたま気付かれただけにしても、何かをうっかり口にすれば、そこを鋭く指摘してきかねません。山ノ井は、慎吾が会わなかった六年の間に、”ただの恐ろしい山ちゃん”から”恐ろしくて天敵の職業についた脅威の山ちゃんに”変貌してしまったようでした。
「でもさぁ、なんか運命的だよねぇ」
今の緊張感をあっさり崩して、ついでに格好も崩して(部屋のラグに足を大いに伸ばして)のんびりと言います。
「オレが警官、慎吾が極道。こういうの小説かなんかで読んだ事ある。旦那は警官、妻は泥棒!みたいな。…あ、慎吾今度警視庁来る?カッコ良く働くオレの姿に惚れるかも」
「惚れるか!つうか行くかよ!何でヤクザが警視庁だよ。ノコノコ何しに行くんだよ。捕まりにか?!」
「そんなムキにならなくてもいいんじゃん。オレだってココに来てんだし」
「そこがおかしいだろまず!あのさ、何あっさりと敵地に見学に来てんの?うっかりツッコみ忘れてたけど!他の奴らに行き会わなかったから良かったけど、もしかしたら山ちゃんの顔知ってる奴がいるかもだろ。オレが警官と繋がってるとか疑われたらどうすんだよ。ウチの今のウリはクリーンなヤクザだからな?!」
「慎吾落ち着いてよも~、ていうか、全然喋らないと思ったら急に喋るようになったね。ようやく調子戻ってきた?」
目の前の山ノ井の頭を叩いて今にも追い出したい気持ちに駆られます。
「それにしてもクリーンなヤクザか。ヤクザがクリーンとか、既にヤクザじゃなくない?」
はっとします。うっかりいつもの調子でツッコんだ所を突付かれて我にかえりました。この流れで、一体何をやって生計を立てているかなどという所に話が行きかねない状況でした。
----------------------------------------------------
山ちゃん、まだ暫く引っ張るかと。
>エコ/ポイン/トの申請を行なおうとしているのですが、レコーダーの方の申請書類作成が上手く行かずイライラきてます。
間違いなく対象商品なのに、型番が間違っているとの表示がどうしても出ます。
保証書に印字されたとおりに打っているのに。
(液晶テレビの方は問題なかった)
まさか印字ミスなのか?とメーカーに問い合わせようにも、何度やっても繋がらず。
サポートの人数が足りてないんじゃないですか…?と。
ああもう面倒だヨ…疲れたヨ…
少しの沈黙の後、「就職したらしいけど」と答えます。
「ふうん、そうなんだ。どこに?」
「や、あんま詳しくは知らね」
「和己とさ、結構仲良かったじゃん。でもやっぱそんな連絡取ってないの?」
「あー、あんまな。つか、オレがコレだからさ。誰とも殆ど連絡取らなかったし」
「それって辛いでしょ」
「…まーな。誰とも連絡をロクに交わさないってのはやっぱな、寂しくないっつったら嘘になるけど」
「じゃなくて、和己と連絡取れないのが」
「…何が?」
再び和己の名前を出されてひやりとしますが、表面上はあくまで取り繕います。
「慎吾はさ、ずっと和己の事が好きだったんじゃないかなと思ってた。なんとなく、そんな気がしてた、ずっと」
「意味分かんねーし、唐突だし、マジで何言ってんの?」
暫く、山ノ井と慎吾は沈黙したまま互いの顔を見詰め合っていました。しかし「まーいーや」と山ノ井はあっさり目線を外しました。慎吾はといえば、まあいい、どころの話ではありませんでした。一体どこまで感付かれているのか空恐ろしくなります。山ノ井が人一倍洞察力に優れていて、たまたま気付かれただけにしても、何かをうっかり口にすれば、そこを鋭く指摘してきかねません。山ノ井は、慎吾が会わなかった六年の間に、”ただの恐ろしい山ちゃん”から”恐ろしくて天敵の職業についた脅威の山ちゃんに”変貌してしまったようでした。
「でもさぁ、なんか運命的だよねぇ」
今の緊張感をあっさり崩して、ついでに格好も崩して(部屋のラグに足を大いに伸ばして)のんびりと言います。
「オレが警官、慎吾が極道。こういうの小説かなんかで読んだ事ある。旦那は警官、妻は泥棒!みたいな。…あ、慎吾今度警視庁来る?カッコ良く働くオレの姿に惚れるかも」
「惚れるか!つうか行くかよ!何でヤクザが警視庁だよ。ノコノコ何しに行くんだよ。捕まりにか?!」
「そんなムキにならなくてもいいんじゃん。オレだってココに来てんだし」
「そこがおかしいだろまず!あのさ、何あっさりと敵地に見学に来てんの?うっかりツッコみ忘れてたけど!他の奴らに行き会わなかったから良かったけど、もしかしたら山ちゃんの顔知ってる奴がいるかもだろ。オレが警官と繋がってるとか疑われたらどうすんだよ。ウチの今のウリはクリーンなヤクザだからな?!」
「慎吾落ち着いてよも~、ていうか、全然喋らないと思ったら急に喋るようになったね。ようやく調子戻ってきた?」
目の前の山ノ井の頭を叩いて今にも追い出したい気持ちに駆られます。
「それにしてもクリーンなヤクザか。ヤクザがクリーンとか、既にヤクザじゃなくない?」
はっとします。うっかりいつもの調子でツッコんだ所を突付かれて我にかえりました。この流れで、一体何をやって生計を立てているかなどという所に話が行きかねない状況でした。
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山ちゃん、まだ暫く引っ張るかと。
>エコ/ポイン/トの申請を行なおうとしているのですが、レコーダーの方の申請書類作成が上手く行かずイライラきてます。
間違いなく対象商品なのに、型番が間違っているとの表示がどうしても出ます。
保証書に印字されたとおりに打っているのに。
(液晶テレビの方は問題なかった)
まさか印字ミスなのか?とメーカーに問い合わせようにも、何度やっても繋がらず。
サポートの人数が足りてないんじゃないですか…?と。
ああもう面倒だヨ…疲れたヨ…
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その内山ノ井は、島崎組の代紋が見たい、と言い出しました。何か裏が無いか慎吾は頭をめぐらせますが、これといって思い当たりません。見るだけならと約束し、山ノ井を大広間へ案内したのでした。
その大広間は、主に冠婚葬祭や重大な話し合いが行なわれる際に使われる所でした。和己が一吾と義兄弟の杯を交わしたのもそこです。広さは実に四十畳程もあります。奥には島崎組と、そして高島組の代紋が並んで飾られていました。
「桜がモチーフなんだね」
島崎組の代紋に山ノ井が感想を漏らします。一見、校章のようにも見えるそれは、しかし角ばった印象で、一線を画していました。
「あれは?」
山ノ井が指さしたのは、代紋の右隣に貼り付けられている大きな紙でした。紙には墨でこう記されていました。
”一、サツの世話になるべからず”
”一、カタギに迷惑をかけるべからず”
”一、仁義を忘れず、地域住民に優しい島崎組を目指すべし”
「あれウチのスローガン」
昔はもっとヤクザらしい、堅苦しく血生臭い文言が記されていたのですが、悟が組長に就任して数年後に書き直されたのでした。
「なんか選挙事務所のスローガンみたい」
最後の一文を読んで、山ノ井はそう感想を漏らしました。
あまり、組に関係の無い人間がうろうろしていい場所では無かったため、慎吾は再び自分の部屋へ、山ノ井と共に戻ります。
ガラガラ、ピシャ、と部屋のガラス戸を閉めた時でした。
「ところでさぁ、和己知らない?」
ギクリ、と思わず身を竦ませます。屋敷内に居る和己が咄嗟に頭をよぎりますが、冷静になろうと努めます。知るはずが無いのです。
「慎吾もだけど、和己も相当音信普通っぽかったよ。成人式には会えたけどさぁ。連絡来てない?」
淀みなく堪えなくてはいけないのに、どう返答したものか迷いました。慎吾と和己が同じ会社に就職したと言えばいい、というのは組の事がバレていない前提での話でした。慎吾はまず、自分が会社に勤めている事を隠さなければならなくなりました。組と会社の関係を警察関係者である山ノ井に知られるわけにはいかないのです。
----------------------------------------------------
>P子様
拍手とメッセージ有難うございました!無事届いたとの事で良かったです(^^)
褒めて頂いてついつい嬉しくなってしまいます。凄く有り難い感じです。
夜桜~の続きの方も、よろしくお願いいたします~m(_ _)m
その内山ノ井は、島崎組の代紋が見たい、と言い出しました。何か裏が無いか慎吾は頭をめぐらせますが、これといって思い当たりません。見るだけならと約束し、山ノ井を大広間へ案内したのでした。
その大広間は、主に冠婚葬祭や重大な話し合いが行なわれる際に使われる所でした。和己が一吾と義兄弟の杯を交わしたのもそこです。広さは実に四十畳程もあります。奥には島崎組と、そして高島組の代紋が並んで飾られていました。
「桜がモチーフなんだね」
島崎組の代紋に山ノ井が感想を漏らします。一見、校章のようにも見えるそれは、しかし角ばった印象で、一線を画していました。
「あれは?」
山ノ井が指さしたのは、代紋の右隣に貼り付けられている大きな紙でした。紙には墨でこう記されていました。
”一、サツの世話になるべからず”
”一、カタギに迷惑をかけるべからず”
”一、仁義を忘れず、地域住民に優しい島崎組を目指すべし”
「あれウチのスローガン」
昔はもっとヤクザらしい、堅苦しく血生臭い文言が記されていたのですが、悟が組長に就任して数年後に書き直されたのでした。
「なんか選挙事務所のスローガンみたい」
最後の一文を読んで、山ノ井はそう感想を漏らしました。
あまり、組に関係の無い人間がうろうろしていい場所では無かったため、慎吾は再び自分の部屋へ、山ノ井と共に戻ります。
ガラガラ、ピシャ、と部屋のガラス戸を閉めた時でした。
「ところでさぁ、和己知らない?」
ギクリ、と思わず身を竦ませます。屋敷内に居る和己が咄嗟に頭をよぎりますが、冷静になろうと努めます。知るはずが無いのです。
「慎吾もだけど、和己も相当音信普通っぽかったよ。成人式には会えたけどさぁ。連絡来てない?」
淀みなく堪えなくてはいけないのに、どう返答したものか迷いました。慎吾と和己が同じ会社に就職したと言えばいい、というのは組の事がバレていない前提での話でした。慎吾はまず、自分が会社に勤めている事を隠さなければならなくなりました。組と会社の関係を警察関係者である山ノ井に知られるわけにはいかないのです。
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>P子様
拍手とメッセージ有難うございました!無事届いたとの事で良かったです(^^)
褒めて頂いてついつい嬉しくなってしまいます。凄く有り難い感じです。
夜桜~の続きの方も、よろしくお願いいたします~m(_ _)m
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やがてタクシーは島崎組に到着しました。山ノ井は興味の塊のような顔で、屋敷を取り囲む高くて長く続く壁を見回しています。ただのミーハー根性のように見えますが、まだ油断は出来ません。何もやましい所は無い事を理解させ、後はお茶でも飲んで帰ってもらおうと考えます。
ただ一つ問題があるとすれば、それは和己でした。土日の訪問客の応対をし、出迎えるのは和己の仕事だからです。そこで邸内に入る前に携帯で連絡し、出迎えも応対も必要の無いこと、部屋からも出てこなくていいと短く伝えました。
自分の部屋へ山ノ井を案内すると、お茶菓子を持って来させ、後は知らないとばかりに慎吾はベッドの上に寝転びました。
「慎吾、あれ何」
山ノ井は部屋の一角を指差していました。そこは、かつて和己が持って来た民芸品が所狭しと並んでいました。
「旅行にでも行ってんの?」
面倒臭くて慎吾がそれを肯定すると、「随分暇なんだね」と返ってきました。「オレなんて超忙しいよ」
そこから、山ノ井の勤務についての話から、警察学校での話まで様々な話題が飛び出しました。自分とは全く正反対の世界に身を置く山ノ井の話は、興味深いもので、気がつけば高校時代のように話は弾んでいるのでした。
「つーか、そんな規律に縛られた生活、よく耐えられるよな。考えらんねえ」
「でも野球部にいたからね。その辺は鍛えられてたせいか、思ったより順応できたよ。それに、オレが警官になった、って言った時の皆の反応が楽しみだったし」
「そんな事の為によく身体張るよな」
「いや勿論、正義感があってこその決意だから」
「嘘くせーよ山ちゃん。限りなく」
すると慎吾ヒドイ、やっぱり変わった。オレに対する愛が無くなった、なんて言うので、「無いから元々。山ちゃんに愛とか」と返します。やはり山ノ井との会話はぽんぽん弾むなと慎吾は思うのでした。
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やがてタクシーは島崎組に到着しました。山ノ井は興味の塊のような顔で、屋敷を取り囲む高くて長く続く壁を見回しています。ただのミーハー根性のように見えますが、まだ油断は出来ません。何もやましい所は無い事を理解させ、後はお茶でも飲んで帰ってもらおうと考えます。
ただ一つ問題があるとすれば、それは和己でした。土日の訪問客の応対をし、出迎えるのは和己の仕事だからです。そこで邸内に入る前に携帯で連絡し、出迎えも応対も必要の無いこと、部屋からも出てこなくていいと短く伝えました。
自分の部屋へ山ノ井を案内すると、お茶菓子を持って来させ、後は知らないとばかりに慎吾はベッドの上に寝転びました。
「慎吾、あれ何」
山ノ井は部屋の一角を指差していました。そこは、かつて和己が持って来た民芸品が所狭しと並んでいました。
「旅行にでも行ってんの?」
面倒臭くて慎吾がそれを肯定すると、「随分暇なんだね」と返ってきました。「オレなんて超忙しいよ」
そこから、山ノ井の勤務についての話から、警察学校での話まで様々な話題が飛び出しました。自分とは全く正反対の世界に身を置く山ノ井の話は、興味深いもので、気がつけば高校時代のように話は弾んでいるのでした。
「つーか、そんな規律に縛られた生活、よく耐えられるよな。考えらんねえ」
「でも野球部にいたからね。その辺は鍛えられてたせいか、思ったより順応できたよ。それに、オレが警官になった、って言った時の皆の反応が楽しみだったし」
「そんな事の為によく身体張るよな」
「いや勿論、正義感があってこその決意だから」
「嘘くせーよ山ちゃん。限りなく」
すると慎吾ヒドイ、やっぱり変わった。オレに対する愛が無くなった、なんて言うので、「無いから元々。山ちゃんに愛とか」と返します。やはり山ノ井との会話はぽんぽん弾むなと慎吾は思うのでした。
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山ノ井の言葉にも、慎吾は眉を寄せて黙ったままでした。
「あのさぁ、もっとリアクションしてよ。ちょっと無愛想になったんじゃないの?オレが警察学校通ってるって聞いたら皆、驚いてくれたのに。山ちゃんが警官かよ!怖ぇな!みたいなさ」
「それとオレの事とどう繋がるんだ?」
一本調子で返します。
「なんか和己みたい。凄いガード固いよね。キャラ変わった?」
「別に」
「どこのエリカ様?…まぁ良いや。警察学校でさ、配属先の希望を出すんだけど。どういうわけか教官に熱心に勧められたんだよね。お前は組織犯罪対策部に行ってくれ、いや行くべきだ。向いてる、って」
「……」
「これって有望って事だよね。そこまで言われちゃうとオレとしても断れないっていうか。本当は、市民の平和を親身になって守る交番の警察官を目指してたんだけど、希望が通って本庁の組織犯罪対策部第三課に配属されました!」
そう言うと誇らしげに胸を張りました。
そこまで言われれば嫌でも事情が飲み込めました。山ノ井の所属する課は暴力団対策等を担当する部署でした。
「つまり、そこで知ったんだな?」
「そういう事。でも別に他意は無いよ。最初にも言ったけど」
山ノ井は担当地域の資料に目を通す内に、島崎組の存在を知ったと言います。
「正直運命だと思ったね。だってこんな偶然無いでしょ?」
うきうきとした様子で話す山ノ井に対し、あくまで慎吾はクールでした。
「それで急に会いたいとか言い出したのか?悪いけど、警官の山ちゃんに用は無いよ。さっきも言ったけど帰ってくれ」
しかし山ノ井は動じるどころか、ふふふと笑いました。
「やっぱりそうなんだ。実は半信半疑だったんだよね、会うまでは。資料に組長とお兄さんの名前は載ってるけど慎吾の名前まではない。殆ど組の運営に関わってないんでしょ。元々秘密主義の組みたいだけど」
言われた言葉に、冷たく睨み返します。自分をハメた山ノ井の言動が、癇に障ります。
「酷いなぁ。そんな顔隠してたなんて。知ってたらうっかり惚れてたかも」
もはや山ノ井に何を言っても無駄だと慎吾は悟りました。「ウチに来ても何も出ねえぞ」と投げやりのように言います。事実、探られて困るような事は今の島崎組にはありませんでした。あるとすれば会社運営の事実ですが、屋敷に来た所でそれがバレようはずもありません。変に拒否すれば逆に怪しまれる可能性も無くはありません。
。山ノ井は、ただ、課の誰も踏み入れた事の無い島崎組に行ってみたいのだと、慎吾に都合の悪い事をするはずが無いのだと強調しました。そうして待たせていたタクシーに慎吾を促し、自らも乗り込んだのでした。
----------------------------------------------------
キンモクセイの匂いがすると、秋が来たなと思いますね。
まぁ、それよりも寒さが否応なく厳しいですけど。
山ノ井の言葉にも、慎吾は眉を寄せて黙ったままでした。
「あのさぁ、もっとリアクションしてよ。ちょっと無愛想になったんじゃないの?オレが警察学校通ってるって聞いたら皆、驚いてくれたのに。山ちゃんが警官かよ!怖ぇな!みたいなさ」
「それとオレの事とどう繋がるんだ?」
一本調子で返します。
「なんか和己みたい。凄いガード固いよね。キャラ変わった?」
「別に」
「どこのエリカ様?…まぁ良いや。警察学校でさ、配属先の希望を出すんだけど。どういうわけか教官に熱心に勧められたんだよね。お前は組織犯罪対策部に行ってくれ、いや行くべきだ。向いてる、って」
「……」
「これって有望って事だよね。そこまで言われちゃうとオレとしても断れないっていうか。本当は、市民の平和を親身になって守る交番の警察官を目指してたんだけど、希望が通って本庁の組織犯罪対策部第三課に配属されました!」
そう言うと誇らしげに胸を張りました。
そこまで言われれば嫌でも事情が飲み込めました。山ノ井の所属する課は暴力団対策等を担当する部署でした。
「つまり、そこで知ったんだな?」
「そういう事。でも別に他意は無いよ。最初にも言ったけど」
山ノ井は担当地域の資料に目を通す内に、島崎組の存在を知ったと言います。
「正直運命だと思ったね。だってこんな偶然無いでしょ?」
うきうきとした様子で話す山ノ井に対し、あくまで慎吾はクールでした。
「それで急に会いたいとか言い出したのか?悪いけど、警官の山ちゃんに用は無いよ。さっきも言ったけど帰ってくれ」
しかし山ノ井は動じるどころか、ふふふと笑いました。
「やっぱりそうなんだ。実は半信半疑だったんだよね、会うまでは。資料に組長とお兄さんの名前は載ってるけど慎吾の名前まではない。殆ど組の運営に関わってないんでしょ。元々秘密主義の組みたいだけど」
言われた言葉に、冷たく睨み返します。自分をハメた山ノ井の言動が、癇に障ります。
「酷いなぁ。そんな顔隠してたなんて。知ってたらうっかり惚れてたかも」
もはや山ノ井に何を言っても無駄だと慎吾は悟りました。「ウチに来ても何も出ねえぞ」と投げやりのように言います。事実、探られて困るような事は今の島崎組にはありませんでした。あるとすれば会社運営の事実ですが、屋敷に来た所でそれがバレようはずもありません。変に拒否すれば逆に怪しまれる可能性も無くはありません。
。山ノ井は、ただ、課の誰も踏み入れた事の無い島崎組に行ってみたいのだと、慎吾に都合の悪い事をするはずが無いのだと強調しました。そうして待たせていたタクシーに慎吾を促し、自らも乗り込んだのでした。
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キンモクセイの匂いがすると、秋が来たなと思いますね。
まぁ、それよりも寒さが否応なく厳しいですけど。
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当日の日曜は、駅までタクシーで山ノ井を迎えに行くことになりました。運転手付きの車で出迎えるのも大仰で、かといって歩いていくには遠かったからです。
「慎吾老けた?」
駅前に姿を現した山ノ井は開口一番そう言いました。
「ちょっと待ってよ。酷くね?久しぶりの再会なのに、いきなりそれかよ」
「酷いのは慎吾でしょ。何なの。殆ど音信不通でさ」
「まぁ、結構忙しかったんだよ」
その話になるとどうしても不利になってしまう為、話題を変え、とにかくタクシーに乗せてしまう事にしました。幸いにも山ノ井は余りツッコんだ話題を振ってきませんでした。どうでもいい雑談ばかりをします。
そして、例の叔父の家に到着しました。にも関わらず、山ノ井はタクシーから降りようとしません。
「違うでしょ慎吾」
「…何が」
意味が分からず、問い返しつつも、何か勘付かれるような事をしただろうかと記憶を探ります。
「オレは本当の慎吾の家に行きたいの。運転手さん、ここに行って下さい」
ズボンのポケットから小さく折り畳んだ紙切れを渡します。
「慎吾、観念してよ。全部分かってるから」
そう言うと、にっこり笑ったのでした。
「言ってる意味が分かんねーんだけど」
慎吾は声のトーンを明らかに落とし、山ノ井を少しの威圧感と共に見返します。
「あぁ、そういう顔するんだ。初めて見た」
しかし全く動じることなく、寧ろ興味深げに返してきます。
「悪いけど、このまま帰ってくんねーかな。話になんねーし」
すると山ノ井は溜息を付き「外で話そうか」とタクシーは待たせたままの状態にし、降りるように促したのでした。
「まず分かって欲しいんだけど、オレに悪意は無いから。慎吾の害になるようなことをするつもりは無いし」
慎吾は黙ったままでした。まだ真意が分からないからです。
「本当は、慎吾の部屋ででも華麗に打ち明けたかったんだよね。そんでちょっと驚いて欲しかった。…でも当然か。そんなすんなり連れて行ってくれるわけないよねぇ、組に」
山ノ井の言葉にぴくりと眉を動かしますが、まだ口を出すには早く、黙って喋らせます。
「オレの進路知ってる?…っていうか、誰とも連絡取ってないみたいだから知らないよね」
そう言うと山ノ井は敬礼のポーズを取り、茶目っ気たっぷりに言い放ったのでした。
「実は警察官になりました!」
----------------------------------------------------
拍手とか、暖かいコメント有難うございました。
もう暫く続くかと思いますが、お付き合いくださいませ!
当日の日曜は、駅までタクシーで山ノ井を迎えに行くことになりました。運転手付きの車で出迎えるのも大仰で、かといって歩いていくには遠かったからです。
「慎吾老けた?」
駅前に姿を現した山ノ井は開口一番そう言いました。
「ちょっと待ってよ。酷くね?久しぶりの再会なのに、いきなりそれかよ」
「酷いのは慎吾でしょ。何なの。殆ど音信不通でさ」
「まぁ、結構忙しかったんだよ」
その話になるとどうしても不利になってしまう為、話題を変え、とにかくタクシーに乗せてしまう事にしました。幸いにも山ノ井は余りツッコんだ話題を振ってきませんでした。どうでもいい雑談ばかりをします。
そして、例の叔父の家に到着しました。にも関わらず、山ノ井はタクシーから降りようとしません。
「違うでしょ慎吾」
「…何が」
意味が分からず、問い返しつつも、何か勘付かれるような事をしただろうかと記憶を探ります。
「オレは本当の慎吾の家に行きたいの。運転手さん、ここに行って下さい」
ズボンのポケットから小さく折り畳んだ紙切れを渡します。
「慎吾、観念してよ。全部分かってるから」
そう言うと、にっこり笑ったのでした。
「言ってる意味が分かんねーんだけど」
慎吾は声のトーンを明らかに落とし、山ノ井を少しの威圧感と共に見返します。
「あぁ、そういう顔するんだ。初めて見た」
しかし全く動じることなく、寧ろ興味深げに返してきます。
「悪いけど、このまま帰ってくんねーかな。話になんねーし」
すると山ノ井は溜息を付き「外で話そうか」とタクシーは待たせたままの状態にし、降りるように促したのでした。
「まず分かって欲しいんだけど、オレに悪意は無いから。慎吾の害になるようなことをするつもりは無いし」
慎吾は黙ったままでした。まだ真意が分からないからです。
「本当は、慎吾の部屋ででも華麗に打ち明けたかったんだよね。そんでちょっと驚いて欲しかった。…でも当然か。そんなすんなり連れて行ってくれるわけないよねぇ、組に」
山ノ井の言葉にぴくりと眉を動かしますが、まだ口を出すには早く、黙って喋らせます。
「オレの進路知ってる?…っていうか、誰とも連絡取ってないみたいだから知らないよね」
そう言うと山ノ井は敬礼のポーズを取り、茶目っ気たっぷりに言い放ったのでした。
「実は警察官になりました!」
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拍手とか、暖かいコメント有難うございました。
もう暫く続くかと思いますが、お付き合いくださいませ!